魔法使いの約束/1周年(第1.5部)ストーリー感想

初読時の感想を公開できる程度に直したものです。

プロローグ

アーサーとカインとオーエン

アーサーとカインのお互いを尊重しあえる関係、主従かつ友人として怖いくらい理想的で美しくてすごい。ここに土足で踏み込んできた北の魔法使いがいるってマジ?
サンリオコラボやアニメージュの因縁のふたりの対談でアーサーを引き合いに出すオーエンがかなり印象的で、オーエンとアーサーはいつか必ず爆発するなにかにしか見えなくてびびってしまいます。火種(に私には見えるもの)のほとんどがメインライターの都志見先生によるものなのも予感を倍増させていて…。

オーエンとミスラとブラッドリー

様子がおかしくなっていたらしいオーエンに対して、その場に居合わせたのにあまり関心のないミスラと居合わせなかったのにある程度察せるブラッドリーの違い、北のこの距離感が好き。
『夢の森を作ったのはオーエン』『オーエンには過去の記憶がない』と知っているけれど、彼の経緯や不調を大して気に留めないミスラ。むしろこれがオーエンとミスラの関係が長続きしている理由のような気がします。近い生態の生きもの同士なので、お互いを刺激しすぎない距離を自然にとれているというか。

ルチルとミチルとフィガロ

干上がってしまった沼の命たちを心配するルチルと、襲撃者を追い払ったフィガロの強さを称賛するミチル。兄弟のこの違い好き好き好き。
強さに焦がれる少年性を愛しているので…。

その他

冒頭の人形劇の男性の話す内容は、各エリアの担当魔法使いたちと重なるところがあったりするのかな。
アーサー、オーエン、ネロ、ムル、フィガロ。

前編

傷オーエンとカイン

傷オーエンがカインに「行かないで」って必死にすがるところ、子どもが仕事に行く親にするようで、自分にも覚えがあり胸が痛みます。
「いい子にしなきゃ」と言いながらドアに椅子をぶつけていたらしい傷オーエンの行動の滅茶苦茶さ、鍵はかかっていないと教えてもらっても自らドアを開けられないところ、すごく亡霊っぽい。生前…この場合は地下に閉じ込められていたころで時間が止まったままの存在のような印象。

ルチルとミスラ

ルチルの「草原に咲いていた美しい花の色は覚えていなくても、安らぎや、心地よさを感じるでしょう?」という言葉が素敵でした。大切な思い出や記憶もほとんどはそういうものだと思うから。
ルチルの言葉のひとつひとつがミスラ自身も気付かないままだったほつれを少しずつ繕っていくような印象があって、素敵な縁だと感じます。

リケとミチル

怯んだミチルを「オズやカインより活躍してください」と鼓舞するリケ、幼くて危うくて最高。
ミチルは!強さに!!焦がれているんですよ!!!(最高!!!!!)
リケに悪気はないのに…無邪気にこんな…(最高…)

「魔力が強くなるって聞いて、一瞬、母様の形見よりも、箒星の雫の方が欲しくなった……」

最高!!!!!!!!!!!!!!!!(大声)
母様と縁あるものかもしれなくても、リケと欲しいものが被ってしまうとしても、魔力が強くなる箒星の雫のほうが欲しいと思ってしまうミチル!!!最高に少年で大好き!!!!
ミチルの少年性の話になると大声になってしまう…。

ルチルとミスラ

温厚で魔力も弱くて争いも苦手なルチルがいざという時、ミスラをかばいに入ったり、そこからすぐにカナリアを連れて離れようとしたり、自分にできることを躊躇いなく動けるの良良良…。

中編

カインとオーエン

「ほらほら。どうしたの、騎士様。」
「大事な賢者様と王子様を守るんじゃないの?」

このあたりのオーエン、完全に悪役のセリフだし自由でかわいい。

「静かに息をして。
いつもみたいに誠実に信頼するんだ。
それが中央のやり方だろ。」

オーエンからカインへの励ましというか心得の伝授というか。
オーエンのツンデレまで含めてカインをリラックスさせたあたり、こういうときのふたりの性格相性はそこまで悪くないのかもしれません。靴投げるのかわいすぎる…。

シノとミチルとヒースクリフとリケ

シノが表向き平気な顔をしながら、内心(どうしよう。どうする……。落ち着け!)と焦っているのが愛おしかったです。このメンバーだと自分一人で先導しなければならないと当たり前に思っているところ…。
そんなシノにヒースクリフが憤るのは当然のことですし、リケの器の大きさもよかったです。
そしてミチルの『誰も認めてくれなかった自分を、シノは認めて頼ってくれた。だから嬉しくて黙っていた』って気持ち、やはりあまりに好きな少年性すぎて抱きしめたい。

シノといいオヴィシウスといい、たとえそれが愛情でも『一方的であること』への厳しさ、都度きちんと指摘が入るのでヒヤヒヤします。好きなキャラが一方的さのかたまりなので…。

ルチルとミスラとフィガロと双子

ルチルを助けるために不恰好に足を掴んででも絶対に離さないミスラと、ちゃんとスマートに腕を掴むけれど他の誰かもルチルを助けようとしていると気付くとさっと離すフィガロ。生き方が対照的すぎる。

「私たち、いくらでもお付き合いしますよ!フィガロ先生の遊び!」
「どんな遊びでも、どんな時でも!
フィガロ先生がしたいのなら!」
「だって、フィガロ先生は私たちの恩人ですし、私たちは先生が大好きですから!」

そんなフィガロにも切実な願いがあることを育ての親であるスノウとホワイトは知っていて、そして知らないけれど恩を受けたルチルのこの…。ここすごくよかった…。

アーサーとオズ

「剣をふるうオズ様は、きっと格好いいと思います!」に、いかなる時もオズを絶対の存在とするアーサーの心があらわれすぎていて大好きすぎました。
このアーサーの物理攻撃への称賛がクライマックスに繋がったのかもしれませんし…。

ムルと賢者

ムルの、賢者にもユーザーにも語りかけてくる言葉が好きです。
まほやく、やっぱり『これは私のための物語だ』と思わせてくる力がすごい。賢者の魔法使いと賢者もあわせた22人の誰か、もしくはみんなが、物語自体が、現代社会で傷付いた人の一助になってくれるかもしれない。知らない誰かが書いたものに『これは自分を救うものかもしれない』と思えること、なかなかないですよ…。
こういうお話だけが素晴らしい!と称賛したいわけではなく、色々な作品の形があって、需要も人それぞれ様々な形があって、私とは全く異なるものを作品に求めている人もいるという前提で。私はまほやくから感じるこの形をすごく好きだと思っています。

傷オーエンとカイン

ヒョエ…みたいな声が出てしまった。カインとオーエンと傷オーエン、それぞれにここまでの積み重ねはたしかにあって、でもあんまりの事故すぎる…。
「置いてかないで……っ。ひとりにしないで!」の傷オーエンと、ボロボロにされるカインくんには正直興奮してしまいましたが、それどころではない。

「僕はかわいそうじゃないの?」
「僕は閉じ込められたまま。」
「僕は置き去りのまま。」
「僕のことは……。」
「助けてくれなかったのに?」

「いい子にしてても、
いい子に待ってても、
僕は助けてくれなかったくせに。」

ここ、情報量が多いのに時系列がこんがらがっているというか…。時系列がこんがらがっているのはカインの部屋にあらわれたときのドアを開けられない傷オーエンもそうで、それが余計にぐちゃぐちゃになったように見えました。

普段のオーエンをかわいそう扱いしたら瞬殺されると思いますが、傷オーエンはかわいそうだと思われたい…。
単純に人格が違うから考え方が違うというよりも、オーエンと傷オーエンのふたりで『オーエン』の中にある二律背反をそれぞれ極端に表出させた存在のように感じます。

クロエとラスティカ

「ありがとうが言えない夜も、
報われない亡霊のような夜も、
恐ろしい怪物になりそうな夜も」

クロエに向けられた言葉ですが、『報われない亡霊のような夜』って今のオーエンのことも指しているのかな…。でもオーエンに限定するというよりは、誰にでもそういう夜がある、というニュアンスに思えます。オーエンにも、誰にでもある夜。
ムルの言葉もそうですが、やっぱり作中の魔法使いたちの苦しみとその対処が私たち読者に重なる瞬間がいくつもあって、このラスティカの言葉もそういうひとつのように感じます。
ほんとうにきれいな表現だ…。

後編

シノとヒースクリフ

「……オレと違って、
ヒースはずっと、
普通になりたかっただろ」

シノがちゃんとこれをわかった上でヒースクリフを誰より特別な存在にしたがっていることを思い出すと、感情がぎゅっとなってしまう…。
『お互いを守る』という約束を破れば、ヒースクリフは魔法使いではなくなって普通になれる。でもシノは自分が武勲を立てることで、主君であるヒースクリフを特別にしたい。
シノの生き急いでいるようなところがどちらに転んでも『シノの思うヒースクリフのため』になるの、すごい。もちろんヒースクリフはこの一方的な献身に怒る権利があるのですが。

オーエンとカイン

オーエンがカインの前で名前呼びになるほど動揺している…。
こんなに取り乱すオーエンも初めて見たし、なのにすぐに平静を装っていつもの口上を述べだすのも痛々しくてきつい…。オーエンはニコラスの時も、傷の人格が現れる前も、こんな風に自分にはどうしようもなかった惨状を前にした時も変わらずこの口上を台本のように述べ続けてきたのかな。
この場で唯一この言葉を聞いたカインが「おまえのせいじゃない」って言ってくれて、本当に本当に本当によかった…。ここで涙ぐんでしまいました。
ここまでオーエンの人生において初めてを与えてくれるカインの遺言が、ちゃんと主君であるアーサーのことなのもめちゃくちゃによかったです。やっぱりオーエンとカインとアーサーの構図が気になってしまう…。

ところでオーエンが本気で焦った声、いたずらっぽさと演技がかった色が抜けてそのぶんかっこよさと大人っぽさが増してこれはこれでいいですね…。
 

強力な魔法使いであるオーエンが、ずっとひとりきりで生きてきたから他人を癒す魔法を知らないの、こちらの感情がぐちゃぐちゃになりますが!?

今のカインを治療できるのはフィガロしかいないと、クロエにフィガロの気配がお城にあるか尋ねられた時の、
「知らないよ。
……よくわからない。
いないかも。いなかったら?」
オーエンのこのセリフ、テキストもそれを汲み上げての声優さんの演技もすっっっごく良い…。
「知らないよ」の時はまだ普段のオーエンっぽさがあるのですが、次の「……よくわからない。いないかも」は一転して正直な申告だと伝わってきて、「いなかったら?」は本気で『尋ねよう』としている声色で…。

オーエンとクロエ

絵面としては泣きじゃくっているクロエのほうが強くて心が育っていてオーエンの問いにも答えることができて、無表情で平静を装っているオーエンのほうがクロエに影響を受けている…。
このふたり、境遇が重なるんですね。でも祈りが届いたかどうかが決定的に違うという。
かつての自分を助けてくれなかった無意味なはずの祈りを、カインのためにまたやってみようとするオーエンと、祈りを教えてくれるクロエ…。構図のハマり方が美しすぎる。

賢者と魔法使いたち

賢者の使い方、なるほど~!と感心してしまいました。
バラバラの魔法使いたちを繋いでより力を引き出す存在が賢者だと、シナリオ上でこれ以上ない見せ方で教えてくれてすごい…。
ここの言葉、痛切なものも含めて美しかったです。

中央の国と北の国の精神性

「人形だとしても!
怯えて、青ざめているではありませんか!」
「そのような者の手を、手放していいはずがありません!」

「心配はいらない。何も恐れるな。
静かに目を閉じて。」
「そう。
きみの会いたい人に会える。」
「オーレオリン。
きみが心安らかであるように。
神様も、僕たちも、見守っている。」

ここ、アーサーもファウストも良かったです。中央の精神だ…。
それに対するスノウの北の国の精神も超超超良かった…。

「……北の魔女は、
誰かに仇討ちを頼んだりしないわ」
「失礼した。誇り高き魔女よ。
ひとりで逝くといい。」

ファウストに痛みを和らげられてアーサーに手を握られて穏やかに逝ったオーレオリンと、苦痛に耐えながら最期に誇り高く笑ってひとりで逝ったバイオレット。あまりにも中央と北の対比が効きすぎていて、ゾクゾクしてしまいました。いや~…すごい…。

決戦の流れ

キャラクターの使い方が上手くて夢中で読んでしまいました。各称号とファウスト、レノックス、フィガロの3人、ブラッドリーとミチルが良かったな…。

オーエンの「僕が悪いに決まってるだろ!」は色々な感情がこみ上げてきて言葉にできません。
ここもフルボイスの恩恵がすごい。オーエンの声に感情の揺らぎがあると必ず意味があるとわかるので。

「永遠に彼が会いに来てくれる、
いばらの城になりたいの。」

ターリアの最後の言葉でじんわり泣いてしまいました。『相手に関心を持ち、それを示すこと(問いかけること)は勇気がいること』だとオヴィシウス、ターリア、賢者を通して描かれていますが、きっと魔法使いたち全員にも共通するテーマで、やはりそこに道徳的な美しさを感じます。

カインとオーエン

『相手に関心を持ち、それを示すこと(問いかけること)』の大切さを描かれたあとに、食事の誘いを無下にされたカインが「どうして」って聞き返すシーンが入るの、本当に丁寧で優しくてすごい。
そして「オーエン。おまえだけ置いてかない。」「そう決めた。」なんですけど、すっっっごい…。なにがすごいって、ここでカインに『特別』さを感じさせる言い回しをさせずに伝えさせたところがすごい…。好きです…。
今回のことで変わったことも確実にあって、でもあくまで『みんなと同じ』で『特別』ではない。こちらは諸々でオーエンにとってカインが『特別』であることを知っているのでもどかしいような気もしてしまいますが、でもカインの平等なそれがオーエンにとって『特別』ということに意味があるような気もします。

最後に

本当に美しい物語をありがとうございました。よかった…と余韻でしみじみしてしまいました。

2年目のお誕生日カードについている特性が今回の物語にちなんだものになっていて、このテキストにオーエンの矜持と孤独と否応なく変わっていくものがすべて詰まっていて本当に本当に本当に大好きです。